在庫管理には、必ず「あの人の勘」が存在する。何年も発注を担当してきた人だけが持っている、「そろそろ危ない」という感覚だ。天候、曜日、キャンペーンの有無、去年の同じ時期の動き——それらを頭の中で勝手に掛け合わせて、発注点を決めている。
この勘を、AIやツールに渡そうとした瞬間に、多くの現場でつまずきが起きる。理由は単純で、勘の中身が言語化されていないからだ。「なんとなく分かる」は、人には伝わっても、ツールには渡せない。
「勘」の中身は、実はただのルールの集合体
いざ言語化してみると、勘と呼んでいたものの正体は、意外と単純なルールの積み重ねであることが多い。「入荷リードタイムが3日を超える商品は、在庫が2週間分を切ったら発注する」「セール告知の1週間前からは、通常の1.5倍の消費ペースを見込む」——こうした条件は、担当者の頭の中では当たり前すぎて、これまで言葉にする必要すらなかったはずだ。
AIに渡すというのは、この「当たり前」を一度、他人にも伝わる粒度まで分解する作業に他ならない。面倒に思えるかもしれないが、実はこの工程こそが一番の価値を生む。言語化した瞬間に、担当者が変わっても再現できる知識になるからだ。
言語化してみると、抜けているデータに気づく
実際にルールを書き出してみると、思わぬ発見がある。「そういえば、天候による変動は感覚でしか把握していなかった」「セール時の消費ペースは、去年のデータをちゃんと見たことがなかった」——勘は、実は半分くらいがデータの裏付けのない思い込みだったと気づくケースも珍しくない。
これは決して悪いことではない。むしろ、AIに任せる前に自分たちの発注ロジックの穴を見つけられたという意味で、大きな収穫だ。
AIに渡す前にやっておきたい3つの棚卸し
実務としてまず着手しやすいのは、次の3つだ。
1点目は、季節性の整理。月ごと、イベントごとにどれくらい消費ペースが変わるのかを、感覚ではなく実績データで洗い出す。
2点目は、リードタイムの一覧化。仕入れ先ごとの入荷までの日数と、そのばらつきを表にしておく。
3点目は、欠品許容度の言語化。「この商品は多少の欠品は許容できる」「この商品は絶対に切らせない」という優先順位を、担当者の頭の外に出しておく。
「代えがたい人材」になるということ
この棚卸しを終えたとき、発注の勘はもう「あなたにしかできない仕事」ではなくなっている。だが、それは価値が下がったということではない。むしろ逆だ。ルール化・言語化を主導できる人こそ、AIやツールを使う側に回れる。現場の実感とデータの両方を持つ人材は、EC業界でこれからますます希少になっていく。
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